ポスター – (C) 2016 HERNANDEZ y FERNANDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A.
2019年7月2日にレンタルリリースされた「家に帰ろう」という映画を借りてきました。
ばかりではないですね、一か月以上経っているので(笑)失致しました。
この映画はスペインとアルゼンチンが合作した映画。ホロコーストを生き抜いた老人が、昔自分を助けてくれた命の恩人に約70年という時を経て会いにいくというロードムービー。
いやぁ結論から言っちゃいますが、本当に素晴らしい映画でしたよ。何回も観たくなる味わい深い名作。至極の一本。
間違いなく(私が今年観た中では)最高の作品。
誰がどういう(ジャンルの)映画が好きとか一切関係なしに、手当たり次第にオススメしたくなるほど面白かった!
めちゃくちゃ身勝手ですね(笑)でも身勝手でもいい。この映画を一人でも多くの人に伝えたい。そんな想いナウでございます。
ということでここから映画「家に帰ろう」についての感想を書いています。
映画「家に帰ろう」の感想
感動系ロードムービーだけどベタ感一切ナシ! 最高のヒューマンドラマである事間違いナシ!
この映画の素晴らしい所は
まずベタじゃないところ。ベタってのはつまり、お花畑感と言いますか、葛藤を抱える主人公に脇役たちが、甘いセリフを吐き、幸せの魔法をかけたみたいにしてハッピーエンド。というようにきれいごと満載の事です。
この映画そんなベタ感は一切ございません。非常に現実的、ことごとく現実的でございます。
ウキウキするような描写はまずないですし、そこ(主人公の心)にあるにはただただ無慈悲で、残虐なモノばかりで、観ててテンション上がるなんてこたぁない。
だけどそこがイイんです。めちゃくちゃイイんです。
それがあるから、というか(ベタ感)ないからですね。ないから少し重たいんだけど、その重たさがやがて深みになる。
深みが、ある線を越えると涙が出てくるんです。
そんじょそこらの、ロードムービーとは一味違う、何癖もあるが、その癖が堪らない最高のロードムービーでございました。
ここからは具体的に魅力を伝えていきたいと思います。
3人の女性に導びかれるようにして旧友の元へ。
この物語の主人公アブラハムは、旧友との約束を果たす為にポーランドへ向かいます。
その道中で幾つものトラブルが起こるんですが、そうした時は常に隣に助けてくれる人がいました。
キーマンは3人。マリアとイングリットとゴーシャという女性たちです。
マリアはホテルのオーナー。アブラハム(主人公)がマリアの住むホテルに宿泊した際、盗難に遭い、一文無しになった時に助けてくれました。アブラハムはマリアの後押しがあって、絶縁していた娘と再会し、その娘に資金援助してもらいます。
イングリットは空港で助けてくれた女性です。ホロコーストを経験したアブラハムはどうしてもドイツを通りたくなかった。しかし、ポーランドへ行くにはドイツを通るしかない。そんな時イグリットの秀逸なアイデアでドイツの地を踏むことなくポーランドへ行けることに。
ゴーシャは看護師でした。70年ぶりのポーランドで右も左も分からない、そして脚が不自由でとてもじゃないが自分の力で動けないアブラハムを車で目的地へと連れて行ってくれました。
この3人の女性の力があって、アブラハムは無事目的地へと辿り着けるわけですが、この女性たちが本当に素晴らしい人間で。
というのはどういういことかというと、アブラハムを助けた女性たちはただ助ける、例えば目的地へ車へ送るとかね、そういうのじゃなく(それでも十分素晴らしいですが)、見知らぬ老人に非常に献身的に向き合ったというのが本当に素晴らしい。
ほぼ初対面(マリアとは一回デート?したので)の状態でアブラハムが今後どうすればいいのかをまるで自分の親友の悩みを聞いてあげるかのように、アドバイスしてあげたってことです。
表面的にではなく根本的にアブラハムに向き合ってあげたということ。
見知らぬ他人に、そんなに親身になって接する人がいるのでしょうか?
それがいたんですよ。そこに。
そんな人たちがたくさんいたらもっと世界はハッピーになるんじゃないかなと思うと同時に、自分もそんな人間になりたいなぁと痛感させられましたね。
少し話がそれましたが、そんな心優しい女性たちがこの映画の魅力。いや魅力ある3人の女性たちがこの作品に一層深みを増したのでしょう。
名シーンありすぎだし、ラストシーンのカタルシスは半端じゃない!
駅のホームでのシーンは本当に深み、そして重みが半端じゃなかった。
両親と妹をナチスに虐殺されたアブラハムがどうしてもドイツの地に足をつけたくなかった。それで考え付いたのが、床にTシャツを並べてその上を歩くというもの。
何も知らないであのシーンを観たら笑っちゃうようなシーンだけど、アブラハムの過去を知っているから笑うことなんて出来ない。非常に哀しくてやりきれない場面。
服の上を歩く、彼の顔をみていると、70年経った今でも吹っ切れない痛みや辛み。彼の心に重くのしかかる想いを感じざるを得なかったし、戦争の無慈悲さを痛感せざるを得なかった。
私は幸運にも戦争を経験しなかった世代なので、経験した人の気持ちを100%理解することは出来ない。けど想像することは出来る。自分の親や友人を殺されることがどれだけ悲しいか。どれだけ苦しいか、どれだけ歯がゆいか。
そんな負の想いを凝縮していたあのシーン。
ベンチに座ると、殺された家族の話をイングリットに話すアブラハム。
殺された理由が11歳だったから?アコーディオン?
マジで何なんだろうなぁ。言葉が出ない。
聞いた話じゃなくてこの目で見た?妹と目が合った?
悲しいじゃ済まないよなぁ。
と思っていたら次の瞬間彼はドイツの地にしっかりと両足をつけた。イングリットを見つめながら。
聖者みたいなイングリットのお陰。
ドイツ人は基本的には許せないけど、イングリットだけは別。こんなに親切にしてくれたんだからとマナーを大事にするアブラハムだからこそ、あの瞬間は死ぬほど嫌でも足を着けたんでしょうね。
いやぁ泣けた。
ハッピーなシーンじゃないから簡単に名シーンとは言えないけど、でもやっぱりあのシーンは名シーンだよなぁ。
痛いほど胸に突き刺さるシーンでした。
その他にも若かりし頃のアブラハムが死の行進を逃げ出して、友人のもとに駆け込むシーン、あそこは音楽が素晴らしくセンスあってその場に引き込まれてしまうほどのパワーがありました。
あと、序盤でマリアが歌うシーンも印象的でしたね。脇役ではあるけれど、マリアの人間としての深みが歌を通してジンジン伝わってくる。
ショットでみても素晴らしい。感傷的に歌うマリアを微笑みながらみつめるアブラハムが映るとことかね。
シンプルに「素敵だなぁ」って思っちゃうほど、凝っていたシーンだったと思います。本来、力いれなくていい場所なのにね(笑)
名作は細部までこだわりますねぇ。
そしてやっぱりですよ。なんといってもラストシーンが1番グッときました。
ゴーシャと共に旧友の家へと向かうあのシーン。町並みは変われど、そこには確かにあの時の家がありました。
大きめの窓がある建物を見上げる時とかね。「あぁ確かにここだ」って顔してましたね。
そしてあのシーン。確かめ合う様にして見つめ合いながら、共に確信して微笑む。
ハグして泣き崩れるアブラハム。優しく無言で抱き寄せる親友。
もう号泣でしょ。なにこのラスト。絶妙に哀しくて、絶妙に微笑ましいというバランスの良さ。1年、いや5年は心に残るであろう名シーンでございました。いやもっとかも。
涙の量も半端じゃないし、カタルシス量も半端じゃなかった。
感無量です。
ちなみにこのラストシーンに使われている音楽はあの時(虫の息のアブラハムが家に向かうシーン)と同じなんですよね。これが効果抜群でした。泣けないわけがない。
同じ道ではありますが、あの時とは違う想いを抱いてあの家に向かっている。
そう考えると対称的でありつつも、対照的でもあるラストシーン。
印象的なワケですわ。いやぁ制作陣よ、お見事!と称えたくなるくらい最高のシーンでした。
おわりに
間違いなく今年ベスト1の作品。これは名作でしょ。
こんなにも素晴らしい作品に出会えて、幸せでございまする。
というわけでこれにて映画「家へ帰ろう」の感想を終わりたいと思います。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
